BMI治療で北陸の最先端を行く 富山西リハ病院

作業療法士が専門チームを編成

患者14人に実施
半数に治療効果

富山西リハビリテーション病院(富山市)は2024年9月に北陸の医療機関で初めてBMIを導入し、従来の方法では改善に限界が見えていた患者さんの新たなリハビリツールとして活用しています。担当の療法士たちは脳波の読解法など専門知識・技能の習得に努め、これまでに14人の患者に治療を実施し、約半数に効果が認められています

『動画でBMIリハビリの実際の様子をご覧いただけます』下記Youtubeリンク

西リハ病院では脳卒中の患者を年間約300人受け入れており、そのうちの8割以上に何らかの後遺症があるといいます。リハビリを繰り返し行うことで多くの患者は後遺症が改善されますが、ある程度まで改善した後は、プラトー(停滞期)となるケースも少なくありません。
 
脳の可塑性を活用して神経回路の再構築を促すBMI技術を用いたリハビリは、プラトーの患者の機能を改善する可能性を秘めており、西リハ病院ではその効力を最大限に引き出そうと、導入にあたり入念な準備を進めてきました。
 
入院病棟と外来の各部署の作業療法士の中からBMI担当者5人を選出、5人はまず安全使用者講習(※)を受講し、BMIの原理や作用機序、訓練中の注意事項、脳波の確認方法などを学習しました。講習終了後、安全使用者認定試験(※)を受け、試験合格を経て、BMIリハビリ実施のコアメンバーとして活動する体制を整えました。
 

※【安全使用者講習、安全使用者認定試験】 いずれもBMIの技術を応用した医療機器を製造・販売する慶應義塾大学発のスタートアップ企業「LIFESACPES(代表取締役・牛場潤一同大理工学部教授)」が実施する。試験合格者には同社より認定証が送られる

コアメンバーはBMIによる治療対象者の選定基準や実施手順、介入頻度(実施回数)などの検討を重ね、機械導入から2週間で運用に漕ぎつけました。治療対象者は▽状態が安定していて憎悪の危険性がない▽車いすや歩行で移動できる▽文書同意ができる程度の認知機能を有する、などの基準を満たす場合とし、重篤な併存疾患や高度の認知障害、ペースメーカーなどの体内埋め込み型医療機器を使用する患者などには行わないことにしました。

安全使用者講習修了者は当初の5人から20人に増え、西リハ病院の吉村裕子リハビリテーション科長は「一人ひとりの技術だけではなく、チーム全体の〝寄り添う力〟を育ててきました」と話します。同科によると、今年10月上旬までに14人の患者にBMIの治療を行い、約5割の人に改善もしくは改善傾向が確認できたといいます。アテローム血栓性脳梗塞を患い、右腕に軽度の運動麻痺が残っていた70歳男性は、発症から326日目にBMI治療を開始しました。

週1回約60分の治療を4回受けた時点で、AOU(麻痺した手の使用頻度※)、QOM(動作の質※)ともに明らかな向上が認められ、運動靴のインソール作りの仕事を発症前とほぼ変わらずに行えるようになりました。また、脳幹梗塞を発症した68歳男性は発症106日目で治療を始め、麻痺した方の手で車の運転もできるまでに回復しました。「約半数の方に改善が見られた一方、改善が見られなかった方にも手応えや希望を感じていただけるよう、一人ひとりに合わせた評価や声掛けの方法などを磨き続けます」(吉村課長)

※【AOU、QOM】 脳卒中により麻痺した手が日常生活でどの程度使えているかを評価する「モーターアク21 ティビティログ(MAL)」の評価指標

頭に装着した機械で脳波を読み取り(写真上)、腕の機器で筋肉に電流を送って刺激します

富山大とネットワークを構築
急性期から退院後までカバー

西リハ病院では富山大学附属病院リハビリテーション科とBMI連絡会を開くなどして治療のコツや注意点、症例などの情報を共有しています。連絡会には服部憲明教授も参加し、BMI治療のアドバイスなどを行っています。同附属病院もBMIを導入し、急性期から回復期、退院後の外来リハビリまでをカバーするBMI治療ネットワークが構築されました。西リハ病院の吉村科長は「BMIはこれからの脳卒中のリハビリを牽引する一つの手法であると確信します。これまでに積み上げられてきた知識や技術に加え、BMIのような先進的なリハビリ技術も積極的に取り入れ、地域の皆様に貢献していきたいと思います」と話しています。

◆ 70歳、男性 
◆ 診断名:アテローム血栓性脳梗塞
◆ 発症からBMI開始までの日数:326日
 1回目の治療の直後から効果を感じた。発症から10月以上も経っていたが、そこからの改善は本当にうれしかった。治療を繰り返すうちに仕事でも手が使いやすくなって、効率が上がった。何よりも妻が喜んでくれたのが良かった。

症例 2

◆ 68歳、男性 
◆ 診断名:脳幹梗塞
◆ 発症からBMI開始までの日数:106日
 治療開始後、すぐに効果を感じた。日ごと麻痺した手でできることが増え、回復している実感が持てた。手のこわばりは残っているが今は車の運転も麻痺した手でできるくらい改善した。画期的な機器であり、もっと世に広がればいいと思う。

症例 3

◆ 49歳、男性 
◆ 診断名:右被殻出血
◆ 発症からBMI開始までの日数:544日
 大きな変化は感じなかったが指を伸ばしやすくなった。発症後は痛みもあり麻痺した手を使わない生活に慣れてしまっていたが、BMIでの治療を受けてから麻痺した手を意識するようになり、以前に比べて日常生活で使うことが多くなった。

※BMIについての対談記事はこちら