
創業100年を超える医療機器商社の老舗・冨木医療器。同社会長の冨木隆夫氏が20年前に三代目社長に就任して以来、一貫して抱く思いは「地域の患者さんに貢献できる企業を目指す」。同社と約40年のつきあいになる医療法人社団藤聖会・親和会の藤井久丈理事長が冨木会長に、人づくりや地域医療における医療機器商社の役割についてお聞きしました。(以下敬称略)

冨木医療器株式会社
代表取締役会長
冨木 隆夫 氏
1981年 横浜国立大学工学部機械工学科卒業
本田技研工業株式会社入社
1987年 冨木医療器株式会社入社
2004年 代表取締役社長
2023年 代表取締役会長
〈冨木医療器株式会社〉
医療機器販売、病院設備の設計施工など。
1918年創業。北陸三県に営業拠点。
資本金9,600万円。

医療法人社団藤聖会・
親和会理事長
藤井 久丈 氏
1980年 金沢大学医学部卒業、同大学第2外科入局
1985年 同大学院医学専攻科卒業(医学博士)
1989年 医療法人社団藤聖会八尾総合病院院長就任
2001年 医療法人社団藤聖会理事長就任
2012年 医療法人社団親和会理事長併任
2017年 富山西リハビリテーション病院を開設
2018年 富山西総合病院を開設
2021年 社会福祉法人慶寿会理事長併任
患者の満足度向上へ、病院と協働
藤井
冨木会長にお会いする機会はなかなかありませんでしたが、うちの病院(富山西総合病院)担当の社員さんとは、しょっちゅう顔を突き合わせて連絡を取り合っています。病院内の医療機器について、今何か足りてなくて、新規導入や更新を急ぐべきなのか、あるいはもう少し待った方が良いのか、さらには使用頻度が少ないので更新は無駄であるとか、身内のように事細かくアドバイスしてくれて、本当に助かっています。
冨木
うれしいお言葉です。藤井理事長にはいつもかわいがっていただき、この場をお借りしてお礼申し上げます。
藤井
1987(昭和62)年の八尾総合病院(現・八尾クリニック)開院以来、幾つかの老人保健施設やクリニックを開院し、2017(平成29)年からは藤聖会グループとしてチューリップ長江病院、富山西リハビリテーション病院、富山西総合病院を開院しました。短い準備期間での開設が多かっただけに、地域や他の医療機関の信頼を得るよう最大限努力してきました。御社には立ち上げの都度、多くの備品や特殊な医療機器に至るまで的確、迅速にサポートしてもらい、大変感謝しています。特に女性クリニックや放射線治療クリニックなど特殊な施設を準備する際は大変だったと思います。冨木さんは大正のころから続く老舗であり、企業規模も大きく、私たちにとっても頼もしい存在です。
冨木
身に余るお言葉を再三、頂戴し、恐縮して、汗をかいてきました(笑)。
藤井
老舗ならではのゆとり、と言いますか、大らかな社風を以前から感じていました。うちの担当さんもそうですが、御社の社員さんは社風の影響を少なからず受けているように思います。
冨木
社風、ですか。これまであまり意識したことはございませんが。
藤井
社風とはそういうものです。ご自分たちは意識しなくても、自然と、にじみ出てくるものです。御社では社員の育て方、人づくりをどうしていらっしゃるのか、機会があったら是非、お尋ねしたいと思っていました。
「人生」や「仕事」テーマに
冨木
私の方こそ藤井先生の人づくりの手腕に敬服しております。先生を前に大変僭越ですが、1つ申し上げますと、全社員対象のグループディスカッションを年5回、開いております。「冨木フィロソフィー勉強会」と銘打ち、「人生とは何か」とか「何のために仕事をするのか」といった結構、青臭いテーマで毎回30分ほど行っています。
藤井
会長がご講演されるのですか。
冨木
いえ、一方向の講義スタイルではなく、私も1人の参加者として、ほぼ毎回、若手社員らと意見を交わしています。会長や社長の職にあると、社内で祭り上げられ、なかなか若い社員の声は聞こえてきません。社員と触れ合い、彼らが思っていることを直に聞く貴重な機会でもあります。
藤井
大変興味深いですね。うちでも取り入れようかな。うちも職員が多くなるに連れてスタッフの声を聞く機会が減り、スタッフも私のことを、あまりよく知らないと思いますので。
冨木
今の若い人は多分、仕事や人生といった青臭いテーマで他者と語り合った経験がないのだ思います。私の助言に対して「そういうふうに考えればいいんですね」と素直なリアクションが返ってきて、新鮮で、心を洗われる思いがしています。社員への見方が変わり、若い人への期待が高まりました。
藤井
部署別に実施しているのですか。
冨木
コロナ禍を機にズームで行っており、それこそ全部署の社員をシャッフルしています。普段の業務では顔を合わすこともない、全く違う部署の社員間の交流にも役立っています。
藤井
こう言っては何ですが、幹部会議では耳障りのいい報告が多いですからね(笑)。トップの思いがスタッフに伝わっているのか、わかりませんしね。
わからない時こそ信頼得る好機
冨木
勉強会の成果なのかわかりませんが、単に病院にモノが売れればよいというのではなく、地域の患者さんに貢献したいという思いを持った社員が大勢いて、心強く感じております。
藤井
素晴らしい。会長は若手社員に、どんなアドバイスをされているのですか。
冨木
若手らによく話していることの1つに、ドクターの質問にどう答えてよいかわからない時こそが信頼を得るチャンスだ、というものがあります。
藤井
ほお、それはどういうことでしょうか。
冨木
ドクターの質問には専門知識がないと受け答えができない場合も少なくございません。そういった場面では素直に即答できないことをお伝えし、次回お会いする際にご返答できるよう勉強して参ります、と答えるのが良い、とアドバイスしております。そして、その先生と次にお会いするまでに、質問の答えだけでなく、その先生が追加してお尋ねされるであろう関連質問を想定し、その答えも考えておくのです。そこまで準備しておくと、コイツはなかなか見どころがある、と思っていただけるのではないでしょうか。
藤井
私の経験からも今のお話は大変、腑に落ちます。確かに、医師の中には新しい担当者の受け答えをチェックしている人が結構います。それは、その社員の仕事に対するスタンスを見ているのです。返答に詰まって押し黙るのも困りものですが、下手に知ったかぶりをして、その場を取りつくろうとすると、かえって信頼を損ないます。どんな受け答えをするかは担当さんの素養だけでなく、所属企業の質を推し量る1つの目安にもなっています。
持続的な病院支援へ
DXを推進
冨木
先ほど弊社の担当社員を高く評価していただきまして、あらためて感謝申し上げます。ただ、一部の有能な社員に頼っていたのでは会社の存在価値はないと思っております。今の担当が優秀であったとしても、次の担当の評価が低ければ企業の信頼は簡単に崩れ去ります。それ以上に、病院の効率的な運営にも支障が出かねません。病院の経営が赤字に陥ると地域医療の低下につながり、患者さんにご迷惑がかかります。そうならないように、効率的な病院運営をサポートするのが我々の役割であり、そのためには我々自体も効率的な会社運営を持続しなければなりません。そういった観点から、病院の経営改善につながる様々なノウハウや情報をソフトウエアに置き換えて、どの社員であっても病院に最適な提案ができるように努めております。
藤井
DX(※)の推進に力を入れていらっしゃるということでしょうか。
※【DX(デジタルトランスフォーメーション)】 高速インターネットやクラウドサービス、
人工知能(AI)などのIT(情報技術)によってビジネスの質を高めていくこと。
冨木
はい。北陸のような小規模なマーケットで、私どものような中小規模の企業が生き残るには、DXに力を入れるしか選択肢はありません。病院運営支援に関するソフトウエアの整備と併せて、診断関連の医療AI部門を拡充したく、目下、商材を集めております。今後、この分野の需要が増えると予測しております。
藤井
北陸きっての老舗でありながら、時代を先読みして新しい分野へのチャレンジを怠らない姿勢に、あらためて感心致します。
冨木
ありがとうございます。仮に私に多少なりとも先読みする感覚があるとすれば、それは前職のホンダ時代に培われたのだと思います。人気車種のモデルチェンジの度に、どうしたら顧客の満足を得られる車にできるか、常に時代の空気を読むようにして参りました。モノづくりもモノを売ることも本質は同じです。いかに顧客に満足を届けるか。このことに尽きます。
藤井
私もそう思います。ところで、ご長男が昨年入社されたとお聞きしました。一層、心強くなられたのではないですか。
冨木
はい。長男は私の助言に基づいて大学卒業後、流通業界に入り、DXの先進的な取り組みを学びました。息子が弊社に入社したことで、私のDXに対する様々な思い、構想を、ゆくゆくは託す考えでおります。
藤井
これからも地域医療の発展、患者さんの満足度の向上に、協働していきましょう。
冨木
ありがたいお言葉です。今後ともよろしくお願い致します。

