【WEB版】地域医療最前線「池端病院」

医療法人池慶会

池端病院

越前市今宿町8―1
TEL:0778-23-0150

地域に根ざした「かかりつけ病院」

小春日和に恵まれた11月末、越前市の池端病院を訪ねると、院長の池端幸彦さんは白衣姿で出迎えてくれました。
院長に就任して30余年、福井県医師会長、慢性期医療協会副会長、中央社会保険医療協議会委員など多数の公職を務め、県内外を飛び回る今も、池端さんは外来に出て、患者さんの診察にあたっています。気さくそうな笑顔で、その理由をこう話しました。


「患者さんと日々接し、治療にあたることで身に着く『現場感覚』を大事にしたいんです。伝聞と生の声を直に聞くのとでは、医療現場の理解度が全然、違ってきますから」

池端 幸彦 院長

1980年 慶應義塾大学医学部卒業、同大学医学部外科 学教室入局1981年 浜松赤十字病院外科
1982年 国立霞ヶ浦病院外科
1983年 慶應義塾大学病院一般消化器外科助手 1986年 池端病院副院長
1989年 同病院長(〜現在)
1997年 医療法人池慶会理事長(〜現在)
2008年 社会福祉法人雛岳園[愛星保育園・たんぽぽ保育園]理事長(〜現在)

専門は一般消化器外科。公益社団法人全日本病院協会福 井県支部長、日本慢性期医療協会副会長、中央社会保険医療協議会(中医協)委員、日本医師会地域包括ケア推進委員会委員長、日本医師会代議員、福井県医師会会長、福井大学医学部臨床教授、福井県医療審議会会長、福井県慢性期医療協会会長、福井県介護保険審査会会長。

住民のニーズに応じた医療を

池端病院が立地するのは越前市郊外の王子保地区と呼ばれる人口約6000人の地域です。この地域の医療機関は診療所も含めて池端病院だけです。隣接する南越前町には診療所はあるものの病院はなく、池端病院は王 子保地区から南越前町にかけてのエリアで唯一の病院なのです。

そのような立地条件から、患者層はとても幅広くなっています。地域の高齢化率は約30%と高く、高齢者医療中心の慢性期病院の役割を担う一方で、初期救急機能も有しており、乳幼児から超高齢者までの「かかりつけ病院」としての顔を併せ持っています。

「1病棟床の小さな病院ですが、地域で必要とされることは何でもやっています」

その1つが在宅医療です。世間でその必要性が叫ばれるようになる前から、池端さんは地域のニーズに応えるために在宅医療に取り組んでいます。起点となったのは、ある保健師からのひと言でした。池端さんは、初代院長の父から病院を継いで10年ほどは外科医としての使命感に燃え、がんなどの手術を積極的に行っていました。しかし次第に、そうした医療と地域が求めている医療に、ズレが生じていることに気づいたと言います。

「この地域でも大病院志向が強まり、手術適応のがんを見つけても、『先生を信用していないわけではないのですが、設備の整った大きな病院を紹介してもらえませんか』といった申し出が増えてきたのです」

「急性期」にばかり目が向いていた医療の在り方を変えるべきなのか。池端さんが思案していたところ、地元の保健師から「先生、ぜひデイケアを始めてください。これからこの地域で最も必要になるのは在宅を支える医療や介護サービスです」と懇願されました。ちょうど介護保険制度が検討され始めた時期でもありました。「デイケア? 何それ」という状態だった池端さんでしたが、繰り返し促す保健師の熱意に ほだされ、勉強を始めました。

「たまたま日本医師会主催の第1回介護保険研修会に参加したら福井県医師会からの一般参加は私だけでした。それがきっかけで県医師会に新設された介護保険 委員会の初代委員長に指名され、あれよあれよという間に、担当理事、担当副会長となり、在宅医療や地域包括ケアにのめり込んでいました」

保健師の見立て通り、在宅療養を希望する住民が徐々に増え続け、コロナ禍でその流れに拍車がかかりました。今では非常勤も含む医師の多くが訪問診療や往診を行い、各部署の看護師も師長級はほぼ全員が訪問看護を経験しています。
今年度の月平均問診療回数は約58回。訪問看護は約 110回に上ります。また、病院隣接 の居宅介護支援事業所(ケアプランス テーション)には常勤介護支援専門員 8人(うち主任介護支援専門員3人)を 配置し、月250件ほどのケアマネジ メントを提供しています。

多職種連携で医療・看護・介護を担う

週1回、全職種出席のケア会議

在宅医療や慢性期医療には医療介護 分野の様々な職種との連携が必要です。池端病院の職員数は非常勤を含め
126人を数え、このうち介護支援専門が23人(兼任含む)、理学・作業・言語聴覚の各療法士が計17人、さらに管理栄養士・栄養士が5人在籍し、地域包括ケアに欠かせない運動(リハビリ)、食事(栄養)、ケアプラン(マネジメント)に万全の体制を整えています。療養病棟の平均在院日数が100・5日と全国平均を大きく下回り、在宅復帰率も83・3%という高さを維持できるのも、多職種連携による在宅メニューの充実が図られているからです。

連携の一環として病棟では、週1回全職種の職員が出席する病棟カンファレンスを開いています。在宅支援に向けた個別症例の課題分析のほか、介護福祉士や介護支援専門員らも、そこで医療知識をしっかり学んでいきます。多職種が意見を交換し方向性を共有する場でもあり、出席を義務付けることで、1人も欠かせない存在であるとの 自覚を高めています。

小児の在宅医療も積極的に

池端さんは高齢者だけでなく、地域で唯一、小児の在宅医療にも積極的に取り組んでいます。これも地域のニーズに応えて始めた取り組みで、一例目の患者は平均生存率4カ月の重い遺伝子病を患い、南越前町から福井県立病院に入院中の乳児でした。

小児専門医でない池端さんにはためらいもありましたが、「1週間でもいい。自宅に帰してやりたい」との両親の切実な願いを受け、できる限りの在宅療養を提供しました。その甲斐あってか患児の余命は約1年まで延び、自宅で家族に看取られ、安らかな最期を迎えました。
現在は小児在宅専門医も非常勤医として勤務し、基幹病院小児科との連携のもと、小児在宅連携拠点として地域で在宅医療中の多くの医療的ケア児に訪問診療・訪問看護等を提供できる体制を整えています。

在宅医療に取り組む中で、池端さんが心掛けているのは在宅と入院を柔軟に組み合わせることです。
「自宅で看取ることに不安があったり、病状が落ち着かなかったりする場合はいったん入院し、病状が安定したら再びご自宅に戻ると言う選択肢を検討してはどうかと思います」

池端病院が病床を持つのは、こうした選択肢を提供するためでもあります。また、入院時から在宅復帰のことを考えて、リハビリを併用した治療メニューも組んでいます。

紹介先にも責任を持つ

「全身麻酔下の手術など、高度急性期医療の全てを当院で対応することはできません。その場合はこの疾患なら どこの病院のどの先生、という具合に 責任を持って紹介先をご案内します」

そのためには広く深い知識と他の医療機関との確かな顔の見える連携が必要で、求められるのはまさに地域密着型病院としての「かかりつけ医機能」です。池端病院には取材前日も、地域包括ケアを担うモデル病院として厚労省の視察団が訪れていました。