【WEB版】同級生 直球対談 働けど働けど、赤字膨らむ 地域医療の崩壊、どう防ぐ

福井駅の恐竜たちの前にて

病院の苦境、国民に知らせ、もっと理解を

北陸中央病院(小矢部市)の清水淳三病院長と福井県医師会長で池慶会・池端病院(越前市)の池端幸彦理事長・院長は、福井大学附属中学の同級生。ともに陸上部のリレー選手としても活躍し、文武両面で切せっ磋さ琢たく磨ま した間柄です。60年近くにわたり親交を重ねるお二人が、国・公・民を問わず多くの病院で、働けど働けど赤字が膨らむ実情とその原因、前例がないほどの難局を乗り切る手立てについて、忌き憚た んのない意見を交わされました。

公立学校共済組合北陸中央病院病院長
清水 淳三 氏

1955年 福井市生まれ
1980年 金沢大学医学部医学科 卒業、同大学第一外科入局
1987年 金沢大学医学部第一外科 助手
1989年 医学博士の学位を受領
「肺癌の免疫療法に関する研究」
1992年 金沢大学医学部第一外科 講師
1996年 石川県済生会金沢病院 外科部長
2004年 KKR北陸病院 副院長
2010年 北陸中央病院 医務局長
2012年 同 病院長 現在に至る
専門は呼吸器外科。日本肺癌学会名誉会員、日本胸部外科学会
特別会員、日本呼吸器外科学会特別会員、日本呼吸器内視鏡学
会特別会員、関西胸部外科学会特別会員、金沢医科大学臨床教
授、小矢部市医師会副会長、他。

福井県医師会長
医療法人池慶会・池端病院理事長・院長
池端 幸彦 氏

1980年 慶應義塾大学医学部卒業、
同大学医学部外科学教室入局
1981年 浜松赤十字病院外科
1982年 国立霞ヶ浦病院外科
1983年 慶應義塾大学病院一般消化器外科助手
1986年 池端病院副院長
1989年 同病院長(~現在)
1997年 医療法人池慶会理事長(~現在)
2008年 社会福祉法人雛岳園[愛星保育園・たんぽぽ保育
園]理事長(~現在)
専門は一般消化器外科。公益社団法人全日本病院協会福井県
支部長、日本慢性期医療協会副会長、中央社会保険医療協議会
(中医協)委員、日本医師会地域包括ケア推進委員会委員長、
日本医師会代議員、福井県医師会会長、福井大学医学部臨床教
授、福井県医療審議会会長、福井県慢性期医療協会会長、福井
県介護保険審査会会長。

清水
お久しぶりです。池端先生は池端病院の理事長はもとより、福井県医師会長、日本慢性期医療協会副会長、中医協委員など多くの役職をお務めで、日々忙しくご活躍されており、近ごろはなかなかゆっくりと会う機会もありませんでしたね。

池端
清水先生も北陸中央病院の病院長をお務めになりながら今もバリバリに手術をされており、一方では北陸の呼吸器外科医のリーダー的存在として、学会発表や論文執筆など研究分野でもご活躍されています。同級生ながら、いつも若々しいエネルギーを感じ、尊敬の念を抱いています。

中学時代からのつきあい

清水
ありがとうございます。池端先生、いや普段のように池端君と呼ばせていただきますが、かれこれ60 年近くのお付き合いになりますね。

池端
そうですね。1968年に福井大学附属中学に入学し、同じクラスになったのがご縁の始まりでした。

清水
最初の中間テストで2人は5教科の合計点が同点で、学年で同点2位でした。それがきっかけで2人の距離が縮まったと記憶しています。

池端
はい。その時の学年1位の成績だったY君を加えた3人が卒業までの3年間、さまざまな分野で切磋琢磨しましたよね。

清水
Y君は灘高から東大に進学し、宇宙開発事業団に就職しました。池端君と私は生徒会役員を務めていましたが、その頃から2人とも医師を目指していて、よく進路や将来の夢を語り合いましたね。

池端
2人とも外科医になったことで共通の話題や課題も多く、今も相談したり、されたりしています。

清水
池端君には私が本当に困った時や病気になった時に、いろいろと相談に乗ってもらいました。決断に迷っていた私の背中を押してもらったことも何度かあります。あらためて感謝します。

「赤シャツ会」の絆、今も

池端
中学時代、2人は陸上部の短距離ランナーでしたよね。

清水
はい。我々にN君とT君を加えた4人で400メートルリレーと800メートルリレーを走りました。

池端
エースのT君は福井県で1、2位を争う実力の持ち主でしたが、我々2人とN君はほとんど練習もしない不真面目な部員でしたよね。

清水
そうでした(笑)。しかし、T君のおかげで、中学3年の最後の県大会では800メートルリレーで4位に入賞し、福井市の連合運動会では400メートルリレーでグループ優勝しました。

池端
奇しくもリレーのメンバー4人全員が医師になり、卒業後60年近く経つ今も2年に1回は温泉に泊まり、ゴルフと麻雀をして、過去・現在・将来を語り合っています。

清水
リレーを走った時のユニホームが真っ赤なシャツだったことから、4人の集まりを「赤シャツ会」と呼んでいますよね。私は4人の中で一番多く病気を患っていますが、心臓のバイパス手術を受けた時も退院後、赤シャツ会に出席することを大きな目標にしてモチベーションを上げていました。赤シャツ会は私の2年ごとの楽しみであり、身体が動く限りは出席し続けたいと思っています。

公立8割、国立7割の病院が赤字
コロナ補助撤廃、物価・人件費高騰響く

池端
ところで、清水君が病院長をされている北陸中央病院は、昨年度まで9年連続で経常黒字だったと伺っています。素晴らしい実績だと思いますが、清水君のところのような一部の病院を除き、近ごろは民間病院に限らず大学病院や自治体病院、公的病院の多くも赤字経営に陥っているという話題をよく見聞きします。

清水
おっしゃる通りです。2024年度決算で全国自治体(公立)病院の86%、国立大学病院の70%以上が赤字経営に陥っています。

融資断られる医療機関も

池端
2022年度ごろまではコロナ関連の補助金が多かったため赤字病院の割合が減っていました。赤字病院が急増する現状について、財務省などは、コロナが治まって病院の稼働率が下がったのが主因だと指摘しますが、実際には多くの病院の稼働率は上がっています。結構忙しく働いているのに赤字になっていく。つまり、増収減益なんです。この状況は、構造的に問題があるとしか言いようがありません。
それでも自治体病院は補填があるからまだ良いのですが、民間病院はそれすらなく、状況は一層、深刻です。職員の賃金を上げるために自分の報酬を削減したり、人を増やす余裕もないので経営者自ら診療現場に立ったりしています。2年連続で赤字を出すと金融機関の対応も厳しくなり、賞与資金さえ貸してくれず、困り果てて県医師会に、なんとかしてほしいと泣きついて来られた病院長もいらっしゃいます。

報酬の伸び、物価高に追い付かず

清水
うちや済生会などの公的病院も補填はありませんよ。ようやく骨太の方針で、物価高騰や人件費上昇に対応した診療報酬の加算が検討され始めたましたが、現場感覚からすると全く足りません。北陸中央病院のような200床以下の中小病院でも人事院勧告の対応や最低賃金の引き上げで人件費が年間4500万円増えています。それに加え、物価は2022年以降、前年比3%以上の上昇が続いており、薬剤や医療機器の支払額は高騰する一方です。さらに、コメなどの食品値上げに伴う食事委託費の増額や控除対象外消費税も重くのしかかり、富山県内の病院関係者からは診療報酬を11%は上げないと経営が持たない、という声を多く聞きます。

診療報酬、大幅な引き上げを
微増では3割が倒産の恐れ

池端
清水君の指摘の通りなのですが、先の参院選でも社会保障費の増大が争点になったように、国民負担が増す診療報酬をいきなり2桁引き上げるのは、かなりハードルが高いですよ。しかし、最低でも7~8%は上がらないと、おそらく2~3割の病院が確実に倒産するでしょうね。

清水
今年の上半期も相当数の病院が倒産しましたからね(※)。このままではごく近い将来、地域医療が崩壊し、必要なときに医療が受けられない社会になってしまいます。しかし、国民の多くは、病院経営がこれほど深刻な苦境にあることを知らないのではないでしょうか。「地元の病院が、ある日突然なくなる」という話は決して大げさではなく、現実に今、目の前で起きつつあるのですが。

池端
病院は備品を購入した場合に消費税分を販売業者に払いますが、公的保険で治療を受けた患者さんにその分を請求できません。このような矛盾した仕組みも、ご存じのない方が多いと思います。それでも、病院側からはなかなか声を上げにくいですよね。経営難を訴えると「経営努力が足りない」と言われてしまう。でも実際は、多くの病院は限界まで努力しています。

富山県内全公立病院が赤字

清水
先ほど池端君は、県立や市立病院は自治体から補助を受けているからまだ良い、とおっしゃいましたが、それでも自治体病院のほぼ全ては赤字です。石川県立中央病院は昨年度の収支が6年ぶりの赤字となり、その額は10億3000万円に上りました。富山県立中央病院は前年度の3倍となる約17億円の赤字を計上しています。経営難は他の病院も同じで、富山県内13カ所の公立病院の24年度決算は全て赤字です。池端君の話にもありましたが、病院や県、市町村の努力だけではどうにもならない、構造的な問題なんです。

池端
その通りです。国が制度を根本的に変えないと、地域住民が安心して暮らせるインフラとしての医療は早晩、行き詰まります。

「国民皆保険」の見直しも必要

清水
地域の基幹病院として最先端医療を提供しているところほど、経営が厳しいですよね。診療報酬は一定の性能までの機器しかカバーしておらず、それ以上高性能な機器を導入すると持ち出しになります。一方で、高額な薬をたくさん使用しますが、それらをすべて保険でまかなおうとすることに無理があります。

池端
少し前、高額療養費の自己負担限度額を引き上げる案が浮上した途端、一斉に猛反対の声が上がりました。高額療養費制度は、長期に及ぶ治療の負担軽減を図るなどセーフティーネットの役割を果たしているのは事実です。しかし、人口減少社会で、1千万円、1億円の治療を受けても7~8万円で済むという、このような制度をいつまでも続けられるはずはありません。また、日本では、新薬が承認されると原則二カ月以内に保険適用しなければならないというルールがあります。こんな制度、世界中で日本だけですよ。欧米では薬効が確認されて薬事承認されても、費用対効果を十分に検討してから保険適用が妥当かどうかを判断します。日本の制度は理想的に見えて、実は持続可能性の面で非常に難しい。結果として、現場の負担がどんどん大きくなっています。

患者に優しく医療者に厳しい制度

清水
国民の多くは「病院に行けば安く診てもらえる」「保険があるから安心」と思っています。国民皆保険制度は、所得に関わらず全ての国民が等しく医療を受けられる素晴らしい制度ではあります。ただ、誤解を恐れずに申し上げると、この世界でも稀有な恵まれた環境が当たり前になってしまい、どこか甘えが生じているように思います。

池端
高額な薬を非常に安価で処方し、その一方で病院は採算が取れずに苦しんでいる。診療を続けながら、「これでいいのか」という気持ちを抱えている医師も少なくないのが実態です。質とコストとアクセスの3つを同時に満たすという世界的には非常識ともいえる医療を提供できているのは、医療者が犠牲になってきたからです。

清水
確かにそうです。患者さんの側も、100円でも支払いが増えると不満をおっしゃるのに、サプリメントには平気で結構な金額を使う方が少なからずいらっしゃいます。そういう意識のギャップが現場をますます追い詰めている気がします。

池端
県医師会長の私が言うのもなんですが、医師会も、もっと国民に医療機関の現状を説明し、理解を得られるように努めなくてはいけませんね。

清水
中医協の会合で池端君が、医療機関の厳しい経営状況を訴えた上で、次回令和8年度診療報酬改定に向けて「入院基本料の確保」と「人員配置基準の緩和」という2つの対応策を述べられていました。的を射た意見だと感心しました。

池端
即効性がある対応策はこの2つしかないと思い、強く言わせていただきました。医療現場ではDXやAIの導入による省力化が進められつつあります。文書業務にかかる時間が大幅に削減されたり、職員の勤務時間が短縮されたりしていますが、現在の診療報酬体系からは、そうした省力化に投資する経費も出てきません。多くの病院が切望する診療報酬の二桁増が実際には困難な状況において、20年近く据え置かれている入院基本料の引き上げと人員配置基準の緩和が、病院が生き残るカギであることを国に対してしっかりと主張していきたいと思っています。

入院基本料の引き上げと
人員配置基準の緩和も重要

医療は社会インフラの一部
経済的支援の必要性認識を

清水
そうですね。結局、この状況を変えるには政治と行政に現場の声を届けるしかありません。地域医療は、警察や消防などと同じ社会インフラの一部と位置付けるべきです。日本医師会が是非、経済的な支援の必要性を国会に訴え、行政の力も借りて地域医療を守り抜いてほしいと、切に思います。

池端
身近な病院が閉鎖する時、初めて住民はそのありがたさに気づくのではないでしょうか。でも、その時にはもう遅い。高齢化社会と言われて久しいですが、その高齢者もこれから減っていきます。人口減少に拍車がかかり、地域を支える力も弱くなっていく。それでも医療を守ろうとする現場の努力が、地域の命を支える最後の砦とりでになっているんです。

清水
おっしゃる通りです。この対談を通じて1人でも多くの方に、医療者の苦悩に少しでも思いをはせていただければ、ありがたいです。久しぶりに池端君にお会いし、つい本音を吐露する場面も多々ありましたが、有意義な時間を過ごせました。お互い古希を迎えておりますが、池端君には地域医療の存続のために、これからも頑張っていただきたい。

池端
私も、清水君が相変わらず臨床に学問に、そして病院経営に精力的に頑張っていらっしゃることを確認できて安心しました。また近いうちに赤シャツ会でお会いしましょう。