
脳科学×AI 脳卒中患者に希望
念じるだけで麻痺した手が再び動く。ふた昔前ならSFの世界の話として一笑に付されたような技術が現実のものとなりました。富山西リハビリテーション病院は、脳と機械をつなぐ「ブレーン・マシン・インターフェース(BMI)※」という技術を応用した最新医療機器を北陸で初めて導入し、従来の方法では回復が困難だった症例の改善に役立てています。同病院の藤井理事長と、その可能性に着目し富山での導入を強く推進された富山大学附属病院脳神経外科の黒田教授、BMI治療の指導にあたる同リハビリテーション科の服部教授が、リハビリ現場に革命をもたらすと期待されるBMIについて熱く語り合いました。
※【ブレーン・マシン・インターフェース(BMI)】 脳と機械を直接接続し、思考や意図に基づく情報の伝達や操作を可能にする技術。「ブレーン・コンピューター・インターフェース(BCI)」とも呼ばれる

医療法人社団藤聖会富山西総合病院
医療法人社団親和会富山西リハビリテーション病院 理事長
藤井 久丈 氏
1980年 金沢大学医学部卒業、同大学第2外科入局
1985年 同大学院卒業(医学博士)
1989年 医療法人社団藤聖会八尾総合病院院長就任
2001年 医療法人社団藤聖会理事長就任
2012年 医療法人社団親和会理事長併任
2017年 富山西リハビリテーション病院を開設
2018年 富山西総合病院を開設
2021年 社会福祉法人慶寿会理事長併任
藤聖会グループ(藤聖会、親和会、慶寿会)として、3病院・4クリニック・
3⽼健・2特護・5サ⾼住など運営。全⽇本病院協会理事、⽇本病院会代議
員、富山県医療審議会委員、富山県⽼健施設協議会理事、富山大学医学
部学外臨床教授、富山市教育委員(元全国⾼P連会長)などを務める。

富山大学脳神経外科教授
黒田 敏 氏
1986年 北海道大学医学部医学科卒業
北海道大学脳神経外科 医員
1989年 国立循環器病センター脳神経外科 医員
1990年 北海道大学脳神経外科 医員
1995年 ルンド大学(スウエーデン) 研究員
1998年 北海道大学脳神経外科 助手
2005年 北海道大学脳神経外科 講師
2012年 富山大学脳神経外科 教授
2018年 富山大学附属病院
包括的脳卒中センター センター長
2022年 富山大学附属病院
脳卒中心臓病等総合支援センター センター長

富山大学リハビリテーション科教授
服部 憲明 氏
1993年 大阪大学医学部卒業
2002年 大阪大学大学院卒業
2003年 米国 National Institutes of Health 研究留学
2007年 大道会森之宮病院 神経リハビリテーション研究部
2008年 科学技術振興機構 さきがけ 「脳情報の解読と制御」領域研究員
2017年 大阪大学国際医工情報センター臨床神経医工学寄附研究部門・
同医学部附属病院リハビリテーション科・
同大学院医学系研究科神経内科学 寄附研究部門准教授
2020年 富山大学リハビリテーション科 特命教授
2022年 富山大学リハビリテーション科 教授
↑富山西リハビリテーション病院での実際のBMIを動画でご覧いただけます。
発症から約1年の患者が職場復帰
脳の可か塑そ性せいを促し神経回路を再構築
藤井
黒田先生、服部先生、お仕事後の大変お疲れのところ、お越しいただきまして、ありがとうございます。富山大学附属病院は2018年に包括的脳卒中センターを開設されて多くの急性期脳卒中患者さんを受け入れ、高度な専門医療を提供していらっしゃいます。私どもの富山西総合病院、富山西リハビリテーション病院(以下西リハ病院)は富山大学附属病院と医療連携協定を締結しており、特に西リハ病院は脳卒中患者さんのリハビリの後方支援病院として、黒田、服部両先生をはじめ富山大学の多くの先生方のご指導、ご支援をいただいております。本日は、これからのリハビリの新たな主軸となる可能性を秘めたBMIという、少々ユニークな手法について、両先生のお話をうかがいたいと思います。
黒田 服部
よろしくお願いします。
藤井
BMIは昨年9月に、黒田先生のご紹介で西リハ病院に導入いたしました。手の麻痺がどのようにして改善するのか、その仕組みや驚異的ともいえる効果等につきましては、後ほど両先生から詳しくご紹介していただきます。本題に入る前に、脳外科医として手術現場の第一線にお立ちになる黒田先生が、リハビリ領域にも強い関心を持っていらっしゃる理由について、まずお聞きしたいと思います。
黒田
承知しました。少し話が遠回りになって恐縮ですが、私は学生のころ救急医を志しておりました。それが脳神経外科で実習した際に、手術で目にした脳の美しさに衝撃を受け、脳神経外科の道を進む決意をしました。脳神経外科の中でも救急領域の代表的疾患が脳卒中ですので、それをサブスペシャルティー(専門領域)としました。おそらく生まれた時から脳神経外科医になると決めていたのかもしれません。週6日は病院で寝泊まりして研究に明け暮れる生活を長く続け、危うく離婚寸前までいきました(笑)。2012年に富山大学に着任後は、大学に優秀な人材を集めて効率的に県民の健康に貢献すべきだと考え、病院長をお務めだった齋藤滋先生(現学長)を拝み倒し、包括的脳卒中センターを開設していただきました。
急性期から回復期まで
地域連携で切れ目なく支援
藤井
これだ、とひらめいたら実現に向けて、情熱を燃やし一気に突き進んでいかれるご性分なのですね。

黒田
どうもそのようすね(笑)。ただ、念願のセンター開設後も課題を抱えておりました。急性期治療を終えた患者さんは増えるのに、その後のリハビリテーションを引き受けてくださる病院が不足しており、転院まで1カ月から1カ月半も待っていただいていたのです。そのような状況の中、藤井先生が「うちで受け入れますよ」と申し出てくださいました。お陰様で早ければ数日以内に患者さんの転院が可能となり、質・量ともに非常にレベルの高いリハビリを受けていただけるようになりました。これにより、患者さんの回復に大きな効果をもたらしています。

藤井
毎週木曜に大学病院から数名の脳神経外科の先生が私たちの病院に来て下さり、当院の医師やリハビリスタッフと病室を回ってくださっています。患者さんの紹介だけでなく診療面でもご協力をいただき、私たちの方こそ感謝申し上げます。
黒田
うちのスタッフが回診結果を報告してくれるので、私としても患者さんの転院後の状態が把握できて助かっています。センターが円滑に機能できているのは藤井先生の病院との医療連携があるからこそです。ご協力のお陰で、急性期治療からリハビリ、在宅支援まで切れ目のない支援体制を整えることができました。
藤井
ありがとうございます。両病院の医師、スタッフの密接な連携は、大学から移ってこられた患者さんやご家族の安心にもつながっています。
リハビリは人生の質を左右
黒田
はい。ご存じのように脳卒中には、血管が詰まる脳梗塞、脳内の血管が破れる脳出血、脳の表面近くの血管にできたこぶが破裂するくも膜下出血の3つに大きく分けられます。それぞれ特徴は異なりますが、共通するのは、手足が動かない、会話ができない、ろれつが回らないといった後遺症が残ることです。我々脳外科医がいくら頑張って手術や急性期治療を施しても後遺症をなくすことはできません。長い戦いを強いられる患者さんにとってリハビリは極めて重要で、人生の質に大きく影響します。急性期後の患者さんに集中的なリハビリを提供する回復期リハビリ病棟は、一般的な急性期病棟の2倍ほどの期間をかけてリハビリを行ってくださいます。とりわけ、非常に充実したリハビリを提供してくださる藤井先生の病院には、感謝しかありません。
藤井
励みになるお言葉です。かねてから富山県の医療界はリハビリ部門が比較的脆弱で、在宅復帰に力を入れる医療機関は多くありませんでした。そのような状況を鑑かんがみて、私たちは回復期リハビリとその後の生活支援を専門とする富山西リハビリテーション病院を2017年に開院し、同時に、富山大学附属病院と県内初の医療連携協定を結びました。2020年に大学病院にリハビリテーション科が開設されてからは、初代教授として着任された服部先生に当院のリハビリスタッフの教育を担当していただき、リハビリの一層のレベルアップを図っていただいております。
服部
私は富山大学に赴任する前に大阪のリハビリ病院で10年間、回復期リハビリ病棟の専従医を勤めておりましたので、回復期の大切さについては十分に理解しております。富山に参りまして、富山大学と西リハ病院がとても良い関係にあることを知りました。北陸全体として神経系リハビリはまだまだ十分とは言えない状況にありますので、両者の関係をより進展させて、この地域のリハビリの強化に貢献したいと思っております。

藤井
リハビリ領域は脳卒中に限らず様々な疾患、多くの診療科と関わっており、実に幅広いですよね。
服部
はい。私たちの病院でも、入院される患者さんは高齢の方やいろいろな合併症を患っておられる方も多く、また、全身状態が安定していない方も少なくありません。安全に、しっかりとリハビリを行うために、主治医、リハビリテーション科医、療法士の先生方らが密に連携し、1つのチームとして取り組むようにしております。
藤井
服部先生が着任されてから富山県のリハビリのすそ野が広がってきております。そのリハビリに、全く新しい手法が登場しました。それが本日のメインテーマのBMIですが、黒田先生が富山のリハビリ現場にぜひ導入すべき、と思われたのは、どういった理由からでしょうか。
牛場慶大教授の学会発表に仰天
リハビリの新たな可能性を確信
黒田
伝統的なリハビリに関しては門外漢なのですが、最近は頭の表面から電気や磁気などの刺激を与えることで脳細胞を活性化させ、運動機能や言語機能の改善を図る試みが世界中で進められています。私のスタッフの1人で富山西総合病院に勤務する柴田孝先生もこの分野を研究していらっしゃって、私も富山に来てから彼の研究に触れるうちに、脳科学(神経科学)を基盤としたリハビリ、いわゆる「ニューロリハビリテーション」に興味を持つようになりました。その流れで、服部先生もご入会されている日本ニューロリハビリテーション学会に入会しまして、2年前に参加した学術集会で、BMI技術を応用した医療機器の開発者である慶應義塾大学理工学部の牛場潤一教授の講演を聴き、仰天しました。脳科学と最先端のAI(人工知能)を組み合わせ、従来のリハビリでは回復が望めなかった重症例でも、患者さんが「動かしたい」と考えるだけで手や指が動かせるようになる、というのです。直感的に「リハビリの新境地が開ける」と確信し、演台の牛場先生を質問攻めにして気を引き、それを機に親しくなりました。
藤井
やはり、先生は一度決めたら突き進まれるご性分ですね(笑)。BMIは「念力で手を動かす」とも言える、まるでSFのような技術ですが、どういった原理なのでしょうか。
黒田
原理をご説明するにあたり、釈迦に説法で恐縮ですが、体が動く仕組みからお話ししたいと思います。脳には手足を動かす神経細胞、視覚や聴覚、会話を司る神経細胞などが機能ごとに特定の場所に集まって存在しています。手足を動かす神経細胞が集まる領域を「運動野」と言いますが、「手を動かしたい」と考えた時、この運動野が反応して電気信号(運動シグナル)を発します。このシグナルが脊髄の神経細胞を介して筋肉に伝わり、手が動きます。神経細胞が電池、筋肉がモーターで、その間を電線がつないでいると考えていただければ良いと思います。
一方、脳卒中によって脳の血管が詰まったり破れたりすると神経細胞が破壊され、運動野から筋肉につながる神経経路も損傷します。電池が壊れ、電線も切断された状態のため、手を動かそうとしてもシグナルが筋肉に届かず、動かせないのです。
しかし、脳には本来の信号伝送経路が寸断された場合、残った神経が新たな経路をつくって代役を果たそうとする「可塑性」があります。スペアの電池が稼働し、新しい電線が伸びてモーターにつながるのです。この代償経路がうまく機能するようになれば運動シグナルが筋肉に伝わり、再び手を動かせるようになります。ただ、患者さんの状態等にもよりますが、自力だけで代償経路をうまく機能させるのは、総じてハードルが高いと言わざるを得ません。
服部
実はかなり以前から、手や指が動くイメージを繰り返すことで病巣周辺の運動関連領域が活性化し、機能回復に有効であることは理論上、分かっていました。「メンタルプラクティス(運動イメージ療法)」も広義では、「念ずれば動く」という考え方に基づいたリハビリの一種です。ただ、イメージが上手にできる人もいれば、できない人もいて、効果は混沌としていました。
AIセンサーが脳波を読み取り
腕の機械が筋肉に電流送り刺激

黒田
「手よ、動け」と念じると、脳波がごくわずかに変化します。波の振幅がほんの少し小さくなるのですが、人間の目にはもちろん、これまでの技術では捉えることは困難でした。牛場先生はそれをAIで鋭敏に拾い上げる技術を開発されました。ざっくりと治療の流れをご説明しますと、まず頭に装着したAI内蔵の脳波センサーが、脳波の変化が生じた際に出る生体信号を読み取り、信号を腕に装着したロボットに送ります。すると腕に取り付けたロボットが弱い電流を筋肉に送って刺激し、筋収縮を促すことで手の動きをサポートします。一方で、筋肉の反応など「手が動いた」という情報は脳にフィードバック(返還)されます。
服部
実は情報を脳にフィードバックできる点が、この装置の肝でもあります。患者さんはロボットに強制的に手を動かされているのですが、脳は自分で手を動かしていると錯覚します。自力か他力かは関係なく、手が動いた事実が繰り返し脳に伝わることで、手を動かす感覚が想起されて可塑性が発動し、代償経路の構築が促されるのです。
藤井
患者さんの自力だけでは一生懸命に念じたつもりでも、なかなか思うような結果に繋がらなかったのが、機械の力を借りることで動くようになる確率が高まるのですね。
脳波を「見える化」
効率よく訓練
服部
はい。BMIでは脳波の状態がリアルタイムでモニター画面に映し出され、脳が上手に使えているか、うまく念じられているかを視覚化することができます。脳波を上手に使いながら訓練を重ねれば脳内に新たなネットワークが形成されて、そのうち機械を装着しなくても手を動かせるようになります。この装置を生涯使い続ける必要はありません。
また、脳卒中は発症から6カ月を過ぎると機能回復は難しいとされてきましたが、BMIによる治療は、発症からかなり時間が経過した患者さんにも有効です。
週1回の治療で職人技が再び可能に
西リハ病院の症例を学会で発表
藤井
西リハ病院の患者さんで、服部先生のご指導のもと、脳梗塞の発症から1年近く経ってBMIの治療を開始した方がいらっしゃいます。週1回の治療を数回実施した時点で、細かい手作業が発症前とほぼ変わらないレベルまで、できるようになりました。スポーツ用品店で運動靴のインソール作りを生業とされている、いわば靴職人の方ですが、以前と同じようにミリ単位の狂いもない精緻なお仕事をこなしていらっしゃいます。
重度の障害にも有効
服部
あの症例には私も驚きました。発症から10カ月余りが経過し、回復期リハビリやその後の外来リハビリではこれ以上の進展が見込めない状態でした。それにもかかわらず1回目の治療で早速、改善の兆候が表れ、最終的にはご本人が望まれていた状態にほぼ戻ることができ、ご家族も大変喜んでいらっしゃいました。週1回の治療で、ここまで改善された症例は特筆に値すると思い、今年2月の日本ニューロリハビリテーション学会で、西リハ病院の野上予人病院長先生や療法士の先生方らと共同発表させていただきました。
この方の場合は中等度の上肢麻痺でしたが、BMIによる治療は、無作為比較試験や多数の論文の解析から、治療が困難な亜急性期以降の重度の麻痺の方にも有効であることが明らかになっています。今までは麻痺が残った状態での生活の質をいかに高めるかという点に主眼が置かれていましたが、BMIは障害そのものをまだまだ改善できる可能性がある唯一の手法だと思います。
「治療ガイドライン」で推奨
保険適用、臨床現場に普及へ
藤井
諦めるしかないと思っていた患者さんにとって福音ですね。
黒田
おっしゃる通りです。国際的には「BMI」という名称より「BCⅠ(ブレーン・コンピューター・インターフェース)」の方が一般的になってきており、今夏改定された「脳卒中治療ガイドライン」には「BCIを応用した訓練は上肢麻痺を有意に回復させる」と記載されています。推奨度は5段階の上から2番目の「B」、エビデンスレベルは「高」に位置付けられています。
服部
ガイドラインで高く評価されている理由は、国内外でBMI・BCIに関する多数の論文が発表されており、それらの論文を網羅的に調べて判断する「システマティック・レビュー」や統計的に処理して解析する「メタ・アナリシス」によって、有効性が認められているからです。効果検証の段階を終え、今や医療機器として保険も適用され、臨床現場に普及しつつあります。
黒田
牛場先生によると、9月末時点で、全国30余りの医療機関に導入されているそうです。北陸では西リハ病院が第一例目で、富山大学附属病院も導入し、脳神経外科の外来患者さんに使用しています。
藤井黒田先生と牛場先生から、BMI装置の購入を勧められた際、その型破りな手法もさることながら、それが治療ガイドラインで推奨されていることに良い意味でショックを受けました。すごく夢のあるお話だと思い、お受けしました。
服部
BMIによる治療は、患者さんの負担が小さいことも特長の1つです。治療は連日集中的に行う場合もありますが、週に1回程度の頻度でも効果が得られる場合もあります。1回の治療は1時間程度ですので、治療のために入院する必要もなく、都合の良い日時に来院して受けることができます。
黒田
イーロン・マスク氏が開発した装置は手術で頭にデバイスを埋め込む方式です。これに対して牛場先生の装置は、頭に脳波センサーを着けるだけで良いので安全性が高く、臨床応用もしやすいです。以前は埋め込み式の方が精度が高いとされましたが、技術の進歩で今では両者の精度に大差はありません。
服部
マスク氏の装置は脊髄損傷やALS(筋萎縮性側索硬化症)で四肢麻痺が固定もしくは進行する患者さんの意思伝達、生活支援が主目的であり、情報をフィードバックさせて脳の可塑性を促すことはできません。一方、牛場先生の装置は治療を重ねるごとに脳内のネットワークが強化されていく仕組みになっており、ジストニアなど他の神経疾患への応用も期待されています。
ゲーム感覚で楽しく
藤井
脳波センサーは見た目がちょっとSFチックで、患者さんはゲーム感覚で楽しみながらリハビリに取り組むことができています。
服部
藤井先生が今おっしゃったこともポイントで、リハビリは「繰り返し」が重要で、そのためにモチベーションを上げる仕掛けを取り入れるのが望ましいのです。牛場先生の装置はそういった工夫も施されており、理想的なリハビリツールと言えるのではないでしょうか。
藤井
ただ、どんな治療でもそうですが、BMIも万人に有効というわけではないと思うのですが。長年手を動かす仕事をしてきた人とそうでない人、運動経験のある人とない人、年齢、認知症の有無などによって効果は変わるのではないでしょうか。
服部
藤井先生のご指摘の通りで、治療効果には運動神経がどれくらい残っているかが最も重要です。また、急性期・回復期・慢性期といった段階によって違うかもしれませんし、集中力や認知機能、言語理解力によって変わる可能性もあります。年齢が脳の可塑性に関係する可能性もあり、若い人の方がより効果が期待できるかもしれません。いずれも現時点では推測の域を出ておりません。細かい層別化を進めていき、適応条件や効果を左右する因子を明らかにする必要があります。
黒田
BMIを使った臨床はこれまで、大半が回復期か慢性期の患者さんを対象にしていました。急性期からの導入効果について、服部先生、牛場先生のご協力をいただき、富山大学附属病院と西リハ病院との共同研究を始めたところです。
藤井
結果が楽しみですね。
※富山西リハビリテーション病院のBMI導入についての詳しい記事はこちら
万博会場で体験会
黒田
はい。BMIの研究は、いつもわくわくします。1人でも多くの方を良くできるのではないかと。リハビリも研究も、わくわくしながら取り組める方が良いと思います。
そういえば牛場先生が関西万博の会場で、BMIの治療体験会を開いたそうです。4台の装置で計200人の来場者に念じるだけで手が動く感覚を味わってもらい、大盛り上がりだったらしいですよ(笑)。
藤井
そうでしたか(笑)。先生方のお話しに引き込まれ、いつの間にか窓外はすっかり暗くなっています。本日は長時間にわたり、ありがとうございました。
黒田 服部
私たちの方こそ楽しい時間を過ごさせていただき、感謝いたします。

